災害と不動産業者の責任

 このところ台風が15号,19号と立て続けに日本列島を襲い、全国各地に深刻な被害をもたらしました。なくなられた犠牲者にお悔やみと被災された方々にお見舞い申し上げます。
 それにつけても、映像で水没した新築住宅などを見るにつけ、不動産業者として忸怩たる思いを禁じ得ません。もちろん不動産業者として私たちは法に従って土地の仲介などを行い、適法な住宅地を提供させて頂いています。そしてお世話させて頂いた土地で、お客様が幸せな暮らしが末永く営まれるのを念願してやみません。
 重要事項説明書には「土地」や「家屋」に関して様々な説明すべき事項が網羅されています。当然ながらハザードマップの告知もしなければなりませんし、そもそも特別警戒区域には家屋が新築できないことも告知義務が課されています。家屋建築土地と同様に道路に関しても、当該土地が接道義務を果たして家屋が新築できる土地なのかを説明しなければならないことになっています。ただし数十年もの遠い過去に水害被害などがあったのかまで説明する義務はありません。つまり不動産売買に関して今後の課題として、河川よりも低地の「浸水地域」か否かという土地購入者にとって「不利益な情報」を告知する義務が不動産業者に課されるのか、という問題があります。
 さらにマンションやタワーマンションの販売に関しても、その地域周辺が浸水した過去があるのか、あるいは配電施設が地下にあるのか。マンションに非常電源が設置してあっても、その設置場所が地下かどうかの説明もしなければならなくなるのか。そして、水害被害を受けた場合に今回の武蔵小杉のタワーマンションのケースのように、一定期間居住の用を満たさなくなった被災期間に、ホテル等に移って暮らした費用負担をどうするのか、という取り決めもして置く必要があるかも知れません。なぜならタワーマンションでエレベーターや水道などが止まった場合は居住に適さないからです。そうしたある意味居住に適さない「欠陥住宅」を販売した不動産業者に損害賠償責任が全くないとは言い切れないからです。
 自然災害は損害賠償請求の埒外だと切って捨てているのが現在の法律ですが、ゴルフ練習場の鉄塔が倒れて下敷きになった家屋の所有者に対して、ゴルフ練習場のオーナーに全く責任がないとは言い切れないと思います。そして長い年月浚渫を怠って、川に中州が出来て樹木が茂っていた状況に、行政の責任は皆無だと言い切れるのでしょうか。秋川の濁流が家屋の基礎下の土地を削ったのは明らかに中州によって流れが変わったのだと、誰の目にも因果関係が見て取れます。行政の河川管理責任を問う声が上がっても、不思議ではありません。終の棲家が不幸の元になっては堪りません。
 歴史的に治世者の最大の課題は「治山、治水」でした。それは現代でも変わりなく、いかに情報が進んでも最終的に対処するのは生身の人です。一炊の蒸気で死ぬ人に過ぎません。情報化の推進もさることながら、「治山、治水」を疎かにしてはならないとの思いを強くする昨今です。

2019年11月01日