ハザードマップ考

 試しに国土地理院の「重ねるハザードマップ」のすべての「災害」項目を重ねて見て下さい。つまりハザードとして色分けされている「洪水災害」「土砂災害」「高潮災害」「津波災害」及び「道路防災情報」のすべてのハザードマップを一つの地図上に重ねて見るとどうなるか、試して頂きたいと思います。そうすると白地図の日本の殆どが白地を残すことなく様々なハザード色で塗り潰されていることが分かります。それが災害列島・日本の現実です。
 国土強靭化が叫ばれて久しいものの、一向に改善される兆しがないのは何故でしょうか。それでも国民は日々の暮らしでそれほど深刻な気持ちを抱いてはいないのかも知れませんが、不動産業者としてはかなり深刻です。なぜなら赤塗りの「土砂災害特別警戒地域」に指定されると「再建築不可」になるからです。
 再建築不可とはまさしく現在ある家屋を取り壊したなら、二度と新築の許可が出ないということです。それは「宅地」としての資産価値が殆ど失われることを意味します。洪水のハザードマップには「想定最大規模」の水深で色分けされているだけで、宅地が洪水マップの地域に入っていても「再建築不可」になるわけではありません。しかしお客さんに「この住宅地は洪水で最大水深○○メートルと想定される地域にあります」と説明して買って頂くのはかなり無理のある話です。
 ハザードマップとはまず平成13年7月改正の水防法に基づき堤防が決壊した際の浸水想定区域およびその際の水深を示した「浸水想定区域図」が作成されたのが最初で、その後に土砂災害防止法(第7条:警戒避難体制の整備等)に基づいて都道府県知事による土砂災害警戒区域の指定が行われ、これを地図上に図示した「土砂災害警戒区域図」が作成されるなどして徐々に様々な災害のハザードマップ、たとえば「高潮」や「津波」や「道路防災」などの害危険個所が追記されて、現在のハザードマップが完成されました。
 しかし日本で想定される災害はそれだけではありません。前述した様々な災害以外にも、活火山などの火口が出現する地点(範囲)や、溶岩流・火砕流・火砕サージの到達範囲、火山灰の降下する範囲、泥流の到達範囲などの火山災害予測図もハザードマップとして作成されています。
 ハザードマップの作成により防災意識が高まるのは災害列島に暮らす日本国民としては喜ばしい限りですが、一方で平成17年以前に建てられた中古住宅が「再建築不可」の地域に建っているとされた場合には資産価値が著しく減じることになり、しかも「土砂災害特別警戒区域」に指定されたまま平成17年以後改善されることなく放置されていることに割り切れないものを感じている国民も多いのではないでしょうか。せめて赤塗りの「特別警戒区域」を黄塗りの「警戒区域」に危険度を下げる工事なり国土強靭化を国なり地方自治体が行う必要があるのではないでしょうか。
 さらに「土砂災害特別警戒区域」に指定された土地や家屋は著しく資産価値が減価することから毎年課税される固定資産税は引き下げるのが妥当ではないでしょうか。

2021年04月01日