コロナ後の不動産

 コロナ後に向かって社会は既に変化しているようです。もちろん不動産関係もコロナ前とコロナ後とで大きく変化しています。
 それを象徴しているのが渋谷駅周辺の貸しビルの空室率だそうです。まだ確かな地区別空室率の統計は出ていませんが、貸しビルに入っている各企業の事務室賃貸の解約が相次いでいる、との情報が流れています。都市開発企業や大手貸しビル業者などでコロナ前に立てられていた事業計画が見直しに迫られるのは必須のようです。
 しかし最も変わるべきはコロナ後の政治ではないでしょうか。コロナ後の落ち込んだ景気対策のカンフル剤として政府は「GO TOキャンペーン」を打ち出しました。「GO TO トラベル」から「GO TO イート」などの旅行や飲食の消費拡大を狙った「GO TO キャンペーン」です。しかし、それはコロナ前の発想でしかありません。人が旅行に食事にと外出して移動すれば確かに消費は増えるでしょうが、それは同時に全国的にコロナの感染拡大をもたらす結果にもなりかねません。
 消費を拡大し経済を動かすにはコロナ後の発想が必要ではないでしょうか。それは人の移動を前提としない経済活動や消費活動に特化すること、たとえばテレ・ワークはもちろんのこと国土強靭化のための公共事業や、海外からの生産工場Uターンの受け皿とすべく工業団地の造成といったインフラ整備で経済を回すことが必要度はないでしょうか。そのためには財政出動こそが必要となるのはいうまでもありません。
 旅行やレジャーに関しても、団体旅行や宿泊施設での大宴会ではなく、個々人か家族単位で自動車を使った移動と密にならないキャンプなどのレジャーを推奨することではないでしょうか。そうした促進策としては高速道路の引き下げや、自然環境に配慮したキャンプ場の整備などが必要です。自動車の移動を前提とすれば深刻な需要低迷に直面している自動車産業にとって朗報ではないでしょうか。
 このブログに関係する不動産業界に対する政策としては大胆な住宅減税を行って、裾野の広い住宅関連の消費と流通を活性化させる必要があります。それも新築だけでなく、中古物件の購入やリファインへの補助制度が必要です。それもバリアフリーといった限定的なリフォームではなく、中古マンションや中古物件全般のリフォームに対する「棲み替え補助金」などの創設が待たれます。コロナ後の生活スタイルの変化に伴い、都市の駅前集中から都市郊外へ、都市郊外から地方へと「生活の質と安全」を求める動きが出ています。この機会を逃さず政府は適切な人口分散化のための政策対応をしてはどうでしょうか。それは震災などの災害対策にもつながるのではないどしょうか。
 IT化社会にとって必須な日本の情報インフラは既に全国に光回線が張り巡らされていて、高速ネットワーク環境では米国以上の世界最先端国家になっています。しかしそうした情報インフラを駆使した日本製のコンテンツやアプリはGAFAに先を越されています。日本政府や日本企業は積極的にネットを駆使するコンテンツの開発に乗り出す必要があるようです。そして学校教育でもそうしたコンテンツ開発のノウハウをしっかりと教えて、AI化社会の未来を見据えた国家戦略が必要ではないでしょうか。コロナ後の未来の世界は人事交流ではなく、情報交流の世界になるのではないでしょうか。情報交流社会になれば人の移動は最低限に抑えられ、しかも地域間格差も解消して地方と都市と均衡ある人口配置が自然と出来上がって来るのではないでしょうか。
 安倍首相は大卒後の一時期、サラリーマンとして製鉄会社に勤務されていたそうですから「鉄は国家なり」という経済哲学はご存知のはずです。国内消費を喚起するにはコロナを契機として社会に形成されたマインドを、鉄鋼などの製造業を中心とした「モノ造り日本」の再生と発展に寄与する方向で誘導する政策こそが必要なのではないでしょうか。「GO TOキャンペーン」で浮かれて「食べ」「歩く」というスタイルは30年も以前のバブル当時の生活スタイルで、それはコロナ以前の発想でしかありません。国民の個々人が家族と地域社会を守る生活スタイルこそがコロナ後の社会に醸成された新潮ではないでしょうか。その新潮に合致した投資と消費の促進策こそが、コロナ後に求められる政治と暮らしのあり方ではないでしょうか。最後に「GO TO トラベル」は英文として誤りです。誰が考えたネーミング化は知りませんが、少なくとも英語圏の人たちから失笑されることは間違いありません。
 いよいよスローガンだけでない、本格的な「地方の時代」が始まる、とコロナ後に期待しているのは私だけでしょうか。

2020年08月01日