不動産取引と成年後見人制度

 不動産業に従事していますと「後見人」問題に直面することがあります。安易にご相談に乗ると、後で横領罪の共犯者に問われかねない事態に巻き込まれかねません。注意すべき事例として、年老いた父親か母親といった「独居老人」を持つ子供(子供といっても定年に近い壮年の場合が多いですか)いよいよ親を介護施設に入れなければならない差し迫ったご相談を受ける場合などです。
 親族が近所にいればそれなりに話は早いのですが、年老いた親が遠隔地でお住いの場合は、おいそれといかない場合があります。そもそも子供たちが親の判断能力がどの程度なのか、知らない場合すらあります。
 そうした相談を受けたなら、まず法廷後見人制度があることを告知し、同じ後見人制度でも親の「認知度」に応じて「後見」か「保佐」か「補助」かに分かれることを説明し、理解して頂かなければなりません。なぜなら「判断能力」に応じて成年後見人の「行使できる権利」が定められているからです。
 たとえば「判断能力が全くない」場合は「後見」となり、後見人には「代理権と取消権」が与えられます。次に「判断能力が著しく不十分」の場合は「保佐」となり、保佐人には「特定の事項以外の同意権と取消権」が与えられます。最後に「判断能力が不十分」の場合は「補助」となり、補助人には「一部の同意権と取消権」が与えられます。
 なぜ事細かくご説明したかといいますと、年老いた親が施設に入る際、財産などを処分する必要があるからです。さらには家屋敷を売却して施設費に充当するケースがあるかも知れません。その場合、安易に不動産売却の相談に乗って仲介・斡旋をした場合、本人または他の親族から訴えられて「刑事罰」に問われかねません。
 現在は判断能力に問題のある人に成年後見人を設ける「成年後見人制度」がありますが、以前は「禁治産・準禁治産者宣告制度」がありました。しかしその制度を適用すれば禁治産者などの事実が公示され、本人の戸籍に記載されるため、社会的偏見や差別を生じる等の弊害がありました。そこで平成12年から「ノーマライゼーション」や「本人の残存能力の活用」や「自己決定の尊重」から判断能力に障害のある人でも平穏な社会生活が営めるように「後見人制度」が制定されました。
 年老いた親を介護施設などへ入所させる前提として、不動産業者が屋敷や家屋の売却を依頼された場合、まず年老いた親の「認知度」を聞く必要があります。そして判断能力が不十分な場合は家庭裁判所に申し立てて法定後見人を選定してもらわなければなりません。
 まだ判断能力がある場合は、後に判断能力が不十分になった時に備えて「任意後見人制度」に則り、任意後見人を選び公正証書で任意後見人契約を締結しておくものもあります。いずれにせよ、年老いた親の屋敷や家屋を勝手に子供が売却することは出来ません。詳しくは「 成年後見制度の利用の促進に関する法律」にありますので、不動産処分の前に法律に則った措置を講じておくべきです。
 宅建取引士の試験で「後見人制度」は試験範囲外ですが、実務ではこうした事例に遭遇することもあるため、不動産業者の基礎知識として知っておくことも必要ではないでしょうか。

2021年02月01日